そのあとは結構カットに慣れてきたので、次もう一回、自分でお店を持ちたいなと思って、 それが自分の美容師人生の最後のほうのフィナーレになってくるんです。また『とらばーゆ』 を。いつも僕は何かあると『とらばーゆ』を買っていたんです。
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人生を変えた女性オーナーとの出会い。 経営者を目指す。
06人生を変えた女性オーナーとの出会い。経営者を目指す。
これはすごい。面白いです。そこで3年やって、そのあとどうしたんですか。
コンビニで分厚いのを買って。
はい。大阪の靱本町といって靱公園の近くにある美容室が、ちょっと見ていて気になったんです。「やったらやった分だけ成果がある」みたいな書き方をしていて、気になるなと思って面接を申し込んで行ったんですが、そこで今思えば結構ターニングポイントになってい たと思う1つの出会いがあって、今はもう亡くなってしまったんですが、当時 60 歳だった女性とそこで出会うことになるんです。
その方が美容室は5階建ての建物の2階に入っていて、1階でその女性の方がブティック をされていた。3階はくつろげる間みたいになっていて、4階、5階にその女性が住まれていて、1棟ビルになっている2階の美容室で美容師を募集していたんです。ちょうどそ の人が任せていた店長が辞めてしまって、「美容室を今閉めているんだけど、あんたやらないか」と言われて、「ちょうど自分のステージにも合っているし、やらせてください」と言っ て、やることになったのです。
そこは本当にバリバリの美容室で、1人でやるのは広いぐらいでしたが、1人雇ったりして2人でぐるぐるやっていた。そうしているうちに、その女性、おばあちゃんとすごく 仲良くなって、いろいろご飯に連れて行ってもらったり、「3階で疲れたら泊まっていっていいよ」みたいに寝たり借りたりしていた。
その人がビルを1棟持っているオーナーさんだったんです。結婚していないふうにも見えていて、どうやってこの人はビルを持ったんだろうというところに興味が行って、「このビル、おばあちゃんのですよね」と聞いたら、「そうだよ」みたいな。「どうやってこれ、手に入れたんですか」みたいな話をした。
その人はいろんなビジネスをやって成功して、そういうビルを何棟か実は大阪に持ってい たんです。すごい体の小さいおばあちゃんだったので、実はその人に「美容師で髪切るのもいいけど、経営でお金をもうけていくというやり方もあるんだよ」と教わったんです。「あ なたはどっちか言うと、美容師というよりは経営者として成功していくほうが合っているんじゃないか」と、その人に初めて人生で言われたのです。
すごいな、それ。
経営者って何だろうと思って、23 ~ 24 歳ぐらいのときからずっと、いろんな本を読んだり、 いろんな人をそのおばあちゃんに紹介してもらったりして、いろんな話を聞いていくうち に、こういう生き方もあるんだと思って、そこから美容師だけではなくて、経営にも興味 を持ちだしたというのが、初めの一歩だったと思います。
へえ! 川尻さん、これは結構興味深い内容がいろいろあるんですけど、まず店長になっ て2階のお店で働いて、ビルオーナーがいて、おばあちゃんがいたとして、まず食事に行 きましょうといっても、23 歳ぐらいの青年からすると誘われても行かない人もいると思う んです。正直、年の近い友達としゃべっているほうが楽だということで。この辺は川尻さん、 どういう捉え方だったんですか。仲良くなってというのは。
僕は当時から割と誘われたら行くタイプだったのもあると思います。でも、単純に興味が ありましたよね。
やっぱり。ここのビルを持っていたということは、わかりますものね。

普通のおばあちゃんよりは、ちょっと「やり手のおばあちゃん」にも見えました。とはいえ、 どうやってこんな一等地にこんなビルを建てて、自分で切り盛りをして、しかも、すごく 優雅に暮らしているんです。自分のブティックで「売らないと!」みたいな感じではなくて、 好きなものを売って、買いに来た人が喜んで帰っていくみたいなスタンスで、ショップは のほほんとされていたので、どうやってこの人は こんなに気持ちに余裕があって、こんなビルを持 てたんだろうみたいに、単純にすごく興味がありました。
すごい出会いですね。そのとき「川尻くんは経営 に向いているよ」みたいに言われたのみですか。 それとも、具体的にこういうビジネスを私はやっ て、ビジネスのノウハウとかやり方まで教えても らった感じですか。
「向いているよ」ということは言われて、「勉強し てみたら?」みたいな興味付けまではされて、僕が「でも、どうしたらいいんですか」み たいな話をしたときに、「自分が大好きなことを仕事にしたほうがいい」というのだけは言 われたんです。 全くわからない畑違いのことをやるよりは、自分が今までやってきたことで、初めは成功 を目指すというのが一番王道だよね、みたいなアドバイスを受けたんです。
それぐらいですか。それでも川尻さんとしては問いというか、こういうことを考えていこ うというのを受け止めて。